『中小企業』だとマタハラは仕方ないの?

2017年10月のおしゃべりCafe(交流会)にご参加くださった石島聡子さまより寄稿をいただきました。
石島さまはマタハラ被害者で、労働審判で勝利的和解を勝ち取り、現在はマタハラNetで記事執筆のプロボノとしてご協力いただいております。

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『中小企業』だとマタハラは仕方ないの?

2017年10月20日のおしゃべりCafeで気になったのが、「中小企業では、妊娠・出産する社員に配慮するのは難しいのか」「財政難を理由にマタハラへの対応が消極的になるのは仕方ないのか」という類の不安の声でした。

私はこの不安に対して、自分のマタハラ経験をもって「マタハラは、会社の規模に関係なく認められてはならない。各企業に合った策があるはず。不安に耳を傾けてくれる専門家もいるはず」と言いたいです。少しでも、働きたい、悔しい、会社の対応の何かがおかしいなどの気持ちを感じている人には、どうか諦めずに、その思いを絶やさずにいてほしいのです。

考えを述べる前に、私自身の経験を少しでも伝えた方がわかりやすいと思うので、問題視されてきた会社の対応の一部ですが、以下に時系列でご説明します。

参考『日本商業新聞社マタハラ事件 勝利解決報告書

マタハラ経緯概要

■私がマタハラを受けた会社は、役員も含めて10人に満たない化粧品日用品の業界新聞社。正社員の記者として勤務。入社前の面接で当時の社長から「うちは家庭的な会社」「これからの時代は女性の記者がいた方がいい」など言われた。私は社長に「結婚、出産しても仕事を続けたい」と話していた。仕事には意欲とやり甲斐があった。就労時間は9:30~17:00。

■2011年第一子妊娠報告の際に、当時の社長に退職勧奨をされたほか、雇用形態を正社員から契約社員に変更するなどの話をされた。それについて上司達には相談していた。当時も就労時間は9:30~17:00。

■私が第一子で利用する保育園の開所時間は7:00~19:00で、会社にはそれを伝えていた。終業17:00であれば保育園の迎え時間には間に合うので、仕事と育児の両立に問題はなかった。社内で終わらない仕事は、移動中や家に持ち帰り行っていた。

■2013年第二子妊娠、出産。その育休明け目前のときに、会社から突然、「(私が育休明けとなる月の月初からを変更開始日として)就業規則を変更し、終業時間を従来の17:00から18:30に延長する。就業時間9:30~18:30に同意できないのであれば会社を辞めて」の旨の話をされる。同意を強要され、退職勧奨をされた。

なお私は産休育休中にも、会社とは何度も連絡をとり合い、会う機会もあった。しかし会社は育休明け目前まで、私に対してのみ、就業規則変更の話はしていなかった。他の社員達には、私に知らせるよりももっと前に知らせていた。

■私は、終業18:30では保育園の迎え時間に間に合わないので、仕事と育児の両立が困難なことを説明。

「就業規則変更は突然聞いた話。仕事をしながら、終業18:30で臨める体制を整える準備期間がほしい」旨をお願いしたが、会社からは「例外は一時的にでも認められない。(目前に迫っている)育休明けの復帰初日から(私よりももっと前に就業規則変更の話を聞いている他の社員と同様に)終業18:30で働ける状態でなければならない」旨を言われ、同意を強要され、退職勧奨をされた。

■育児時短勤務制度を設けてほしい、という私の希望も拒まれた。

私は会社に「復帰をしたい。もっと話し合いをしたい」とお願いしたが、会社は「もう話すことはない」と話し合いを拒否。私は、このままでは解雇されるという不安に駆られる。

育休明け職場復帰は叶わず、以降、 2014年10月から2016年1月までの間、自宅待機状態となる。未払い賃金が発生。

労働局に相談すると、会社は「時短勤務制度は設ける」とした。しかし、「時短勤務時間は11:30~18:30まで」としてきた。この時短勤務では、始業時間が短縮されたのみで終業時間は18:30のまま。結局、私が時短勤務を希望した理由である「保育園の迎え時間に間に合わない」という、仕事と育児の両立が困難な事態は何一つ変わらない。

■私は「せめて終業18:00となるように、11:00~18:00の時短勤務時間にしてほしい」とお願いしたが、会社は「終業時間18:30は譲れない」と頑なに拒んだ。私が「残業が必要なときは18:00以降まででも対応する」旨を伝えても、会社は「終業時間は18:30」の一点張り。

会社は、終業時間18:30が譲れない理由に「17:00以降までする仕事(取材)が増えた。他の社員は19:00、20:00まで仕事をしている。例外で一人だけ早く終わることはできない」旨の回答。

■もはや自分一人だけでは、労働実態等を踏まえて会社と話し合いを進めることは不可能と判断。個人加盟の労働組合に入り、団体交渉を開始。

■団体交渉の中で、会社は記者の仕事について「残業が増えた」「夜遅くまでする仕事(取材)が多い」ことを理由に終業時間を18:30に延長した旨を主張。

しかし組合が、会社が出したデータを基に分析した結果、残業が増えた実態がないこと、夜よりも午前から夕刻頃までの仕事(取材)が多いこと等を確認。就業規則を変更して終業時間を常時延長する根拠がない労働実態から、業務上必要なときの残業は対応するとした上で、従前どおり17:00終業での職場復帰や、未払い賃金の支払いを要求。会社に対して譲歩案の提示も求め続けた。

■団交の中で会社は「(私が)会社のために新規開拓の仕事で成果を出していることは、会社の全員が認めている。取材先の企業にうまく入り込んでいる」旨の評価をしていた。

■会社は、終業18:30では仕事と育児の両立が明らかに困難なことを知りながら、最後まで「終業18:30で職場復帰をして」と頑なに私からの要求を拒んだ。理由に度々「会社の運営のために最低限必要」「会社の業績の大幅悪化の可能性がある」など財政事情をあげ、譲歩案等も一切出さず。業績悪化の具体的な根拠は解明されなかった。

■解決の姿勢を見せない会社にますます疑問。問題解決を弁護団に依頼。会社の不誠実な対応で交渉に時間はかかったが、従前通り9:30~17:00での職場復帰を勝ち取る。

ただし会社は、未払い賃金の支払いを拒否。会社が一方的に長期に及ぶ自宅待機を強いてきたにも関わらず、「復帰するのだから、今までのことはなかったことにして」「水に流して」など述べてきた。慰謝料の支払いも拒み、賃金等の懸案事項は継続協議となった。

■復帰後にわかったのは、同じ会社内で他の記者の終業時間は、会社が「夜遅くまでする仕事が多い」「業績の大幅悪化の可能性がある」などを理由にして頑なに主張し続けていた18:30ではなく、1時間早い17:30だった。育休明け目前に、新たな就業時間として同意を強要していた18:30終業ではなかった。私は残業ができる体制で仕事に臨んでいたが、会社が主張していた“夜遅くまで仕事(取材)が入る日”はわずか。常時終業時間を18:30にする必要性のない労働実態だった。

■職場復帰後、退職金掛け金減額の同意を強要、約束していた勤務体制の一方的な変更、一部社員による無視などを受ける。業務遂行ができないことを理由に、2016年8月退職。未払い賃金や慰謝料の請求は継続。

■会社の不誠実な対応に早期解決が見込めず、2016年8月労働審判に訴える。裁判官から「会社にマタハラはあった」という明確な言葉あり。労働審判員からは、会社の姿勢を強く問題視する指摘あり。会社の釈明や反論はなし。

それまで金銭の支払いを頑なに拒否し続けていた会社は、裁判官が提示した以上の解決金を、一括で支払う。勝利的和解を勝ち取る。

頼る先わからず絶望

このように会社は、第一子妊娠報告の際に退職勧奨や雇用形態変更の話をしてきたほか、第二子育休明け職場復帰を頑なに拒みました。第二子育休明けの退職勧奨はさらに執拗で、当時の支社長や一般社員が社長と一緒になって、様々な言葉で退職勧奨をしてきました。はじめの頃は頼る相手もわからず、不条理や疑問、心細さの中で苦しい思いをしていました。

「終業時間18:30」について会社が度々理由としてきたのは、会社の経営規模や財政事情です。

労働局からは「仕事と育児の両立が明らかに困難でも、この時間帯でないと運営困難だと会社が言う以上、時短勤務時間帯を会社に指導することはできない」「会社の述べる労働実態が事実かどうかを労働局で調べることはできない」という頼りない対応。会社は、設けるとした時短勤務制度や18:30という終業時間が労働局に認められたものと強気になってしまい、仕事と育児の両立を考えた話し合いはますます絶望的でした。

産休前に会社とは、育休明け職場復帰を約束していました。会社は、職場復帰後の業務の進め方等について説明する書面も出していました。でも、労働組合による、職場復帰を望む団体交渉の中で「もう一人雇う余裕などない」旨の話を初めてされたのです。交渉の席には、当時の社長のほかに、交渉権のない当時の一般社員も出てきて、あくびや嘲笑、複数回の不規則発言などで、交渉は度々乱されます。一方で交渉権のある当時の支社長は、会社の一連の対応や私に対して、唯の一言も意見を述べることはなく。組合からの「まずは復帰して、仕事をしながら環境を整備できないか」という提案も、即座に拒まれました。

私は会社に譲歩の姿勢を見せているのに、会社はまったく譲歩の兆しも見せず進展なし。自宅待機状態で時間だけが過ぎ、頑なに復帰を拒み続けられるばかり。会社の態度は、問題解決のために交渉に臨んでいるものとは到底思えませんでした。

組合の対応には励まされるものがありました。ですが会社は、嘘や言い訳を述べ、会社が出したデータに基づいて事実を分析しても頑なな姿勢を変えることはなく。会社の冷たい対応には、落胆し、心が細断される思いでした。

前進と成果で得た勝利

そんな私に、一歩、もう一歩と、前進する意欲を与えてくれたのが、事の重大性をすぐに問題視した弁護団です。この事件を「明らかにマタハラ」と言い切っただけでなく、この業界新聞社の労働実態を踏まえて、私の「中小企業だからといって、会社の規模や財政難を理由に、マタハラが見過ごされることがあっていいのか?」という気持ちに共感してくれたのです。不安や疑問に苛まれる私の声に、一つ一つ耳を傾けてくれる弁護団でした。長い間押しつぶされそうだった私の思いを汲み取り、共感し、誤りを会社に指摘し、解決を図ろうとする彼らには、とても救われました。

日本の多くが中小企業であり、今は、どの企業も妊娠・出産・育児をする労働者と関わる可能性が十分にあります。この業界新聞社のマタハラ事件を他の中小企業が知った時、「中小企業であれば、マタハラが起こっても見過ごされる。それは仕方のないこと」と誤って認識される事例となってはなりません。そうした思いも次第に膨らみ、私の背中を後押ししていました。

結果私は、産休前の就労時間9:30~17:00での職場復帰を勝ち取ることができました。これは、会社が、会社自身の頑なだった態度に遂に誤りを認めたと言えるものです。

そして労働審判では、裁判官が「会社にマタハラはあった」と断言しました。ある労働審判員は、会社が設けるとした時短勤務制度11:30~18:30が極めて一般的ではないことを指摘。これに対して会社が「これは違法ではない」と開き直ると、労働審判員は即座に「義務的対応と、好まれる対応は、別!」と語気強く述べ、会社は一言も反論できないという場面もありました。そして私の弁護団は、裁判官が一度提案した解決案をすぐさま疑問視し、「この事件は、そのような形で解決される事件などではない!」と、とても熱心に説明してくれたのです。

会社は、裁判官が提示した以上の解決金を、一括で、短期間のうちに支払うことになります。長きにわたり金銭支払いを拒否し続け、慰謝料を請求するのなら法廷で争う旨の発言までしていた会社が、慰謝料を含めて、裁判官の提示以上の解決金の一括支払いを、短期間で決断したのです。これも、会社がそれまでの自身の誤りを認めたことそのものを意味していました。

一連の数々の成果や、専門家達からの言葉の積み重ねで、私は、子供の尊厳を守り抜いた大きな勝利を得ることができたのです。

私の前進や勝利的和解は、一時は絶望のどん底だったところを、組合や弁護団の専門的な対応を支えに得られたものです。退職勧奨や労働局の段階で諦めていたら、この業界新聞社のマタハラは、企業規模を理由に見過ごされていたでしょう。裁判官から客観的に「マタハラあり」と断言されることも、労働審判員が会社を厳しく諭すことも、そして、会社自身が誤りを認めることも、なかったことでしょう。もしかすると、同様のマタハラをする中小企業を出すような前例にしてしまっていたかもしれません。

マタハラは深刻な事態

私は、マタハラで悩む人に、司法の場での争いを勧めているわけではありません。シンプルに妊娠・出産・育児ということだけでも心配なことが多いので、その上に、職場を相手にアクションを起こすことは、精神的にきつい時間が伴うことは否定できません。

ただ、仕事に意欲を持ち、妊娠・出産・育児の喜びを享受しようとする一方で、会社の対応に疑問を抱きつつも、正確な実態がわからないだけに自分から会社の規模や財政事情を理由にするしかなく、信用していた会社からのマタハラを泣く泣く受け入れるしかないという事態は、辛く、残念で、非情なこともあり、起こってはならないと思うのです。

マタハラは、子供の存在を職場から否定されるに等しい重大な問題です。仕事に意欲を持ち、子供の誕生を喜ぶ妊娠・出産・育児する人が、信用していた職場からの辛い言動によって、子供を否定されるに等しいマタハラを受け入れざるを得ない状況に追い込まれるのは、とても悲しくて深刻な事態です。

もし、現状に抱く疑問があるとしたら、少しでも、誰かに、どこかに、話してみるのはいかがでしょうか。頼りやすい相談先を見つけ、まずは疑問の解消や安心できる場の確保から進めるのもいいかもしれません。例えばマタハラNetも、その相談先になれると思います。

マタハラ防止策に真面目に真剣に取組む中小企業もあると思います。企業側・働く側が互いに寄り添える職場環境作りに真摯に取り組む企業の話も、直に聞いたこともあり知っています。そうした企業の沢山の活躍が、今後、正確な情報が行き届かず、まだ良い策に取り組み切れていない中小企業への好事例となりますことを、心より願っております。
(筆者=石島聡子)

参考『日本商業新聞社マタハラ事件 勝利解決報告書