マタハラの基礎知識

マタハラは社会的問題

 

古くて新しいマタハラ問題

日本は未だに第一子の妊娠を機に、約6割の女性が仕事を辞めています。育児休業を利用したあとに職場に復帰した割合は、正社員で43.1%、派遣・パートなどの非正規社員はわずか4%に留まっています。経済先進国では女性の就業率が高いほど出生率が高くなるという比例関係にあるのに、少子化が深刻であるにもかかわらず日本はマタハラ問題を置き去りにしてきました。アメリカでは40年前から話題になっている話。フランスではおばあちゃんの時代にあった問題と言われています。被害者が声を上げ、ようやくスポットライトが当たったのが2014年の話です。

マタハラは感染力の高い伝染病

女性は誰しも妊娠する可能性を秘めています。一人の女性がマタハラ被害に遭っているのを目にすれば、それを見ている周りの女性にも感染し、いずれ自分もされる可能性があると黙って辞めていってしまいます。マタハラNetに相談を頂いた女性たちは、「妊娠が悪いことのように思えた」「こんなことなら妊娠しなければよかった」「二度と子どもを産みたくないと思った」などといった声を漏らしていおり、こうした女性を同じ職場で見れば、他の女性たちが結婚や妊娠を踏み留めることに繋がってしまいます。つまり、マタハラは一人の女性に対するハラスメントではなく、女性社員全体に対するハラスメントとして伝染していってしまうのです。

マタハラは働き方の違いに対するハラスメント

妊娠や出産・育児を機に、産休・育休・時短勤務することで、いくらでも残業ができる他の社員とは働き方が異なることになります。その働き方の違いを職場が受け入れることができないがために発生するのがマタハラです。これは大きな問題を秘めています。これからの高齢化社会では毎年10万人が介護離職するとのデータもあり、介護のための時短勤務や在宅勤務など、これまでとは異なる働き方を必要とする社員が増えていくことが推測されます。こうした働き方の多様性を認めないということは、マタハラに限らず、介護を理由に被害に遭うケアハラ(ケアハラスメント)にも繋がっていってしまうのです。マタハラの解決は、近い将来を見据えた上でも急務なのです。

日本でマタハラが生まれる理由

 

マタハラの2つの根っこ

経済先進国の日本で、マタハラが生まれる理由は大きく2つあります。
1つは性別役割分業の意識。男性が外で働いて、家事・育児は女性が担うという家庭における夫婦の責務や役割を明確に区別する考え方です。
そして、もう1つが長時間労働。マタハラNetのデータ調査でも、「残業が当たり前で8時間以上の勤務が多い」約38%、「深夜に及ぶ残業が多い働き方」約6%、合計約44%と長時間労働が横行している職場でマタハラが起こっていることが分かりました。有給取得率別にみると、「毎年1~2日くらいしか取得できなかった」約22%、「1度も取得したことがない」約20%、合計約42%と産休・育休どころか有給すら取りづらい労働環境でマタハラが生じていることがうかがえます。

性別役割分業の意識と長時間労働は、高度経済成長期にできた日本独特のモデルケースです。このモデルケースで経済成長という成功体験を収めてしまったために、長時間労働のわりに生産性が低いと他国から指摘されても、未だこのモデルから脱することができません。長時間労働がベストなあり方だと社会全体が思い込んでしまっていることこそ、マタハラを生んでしまう大きな理由なのです。

女性が一枚岩ではない

日本の女性が一枚岩でないことも、女性が働き続けることへの理解が進んでいない理由だと考えられます。
女性は大きく分けて3グループに分かれています。結婚や妊娠を機に、専業主婦を選択する女性。結婚や妊娠を選択せず、キャリアを最優先に働く〝バリキャリ”(バリバリ働くキャリアウーマン)と呼ばれる女性。そして、結婚や妊娠、子育てしながら働き続けたいと希望する〝ワーママ”(ワーキングママ)と呼ばれる女性。男性上司だけでなく女性同士でも、女性の価値観の多様性を理解することができていません。
男性並みに働いてきたバリキャリの女性がいたからこそ、女性の社会進出が進みました。子育てを一身に担う専業主婦の女性の労働力ももっと尊重されるべきです。子供か仕事か、女性たちを二者択一に追い込んでしまう今の社会は問題です。このことが晩婚化や少子化を進めてしまったのであれば、やはり働き方を見直す必要があるはずです。
専業主婦であろうが、バリキャリであろうが、ワーママであろうが、女性が選びたい道を選べる社会であって欲しい。それこそが、マタハラNetの願いであり、女性全体の地位向上に繋がると考えています。

マタハラ4類型

マタハラNetには200件(2015年12月現在)を超える被害相談が寄せられています。その相談内容をもとに、マタハラを4つの類型にまとめました。

4つのマタハラ類型

大きくは【個人型】【組織型】に分類されます。個人型の加害者には直属の上司や同僚を想定しています。組織型の加害者には経営層や人事を想定しています。

【昭和の価値観押し付け型】
「子どものことを第一に考えないとダメだろう」「君の体を心配して言っているんだ」「旦那さんの収入があるからいいじゃない」この言葉の後に「だから、辞めたら」と続くと完全なるマタハラとなります。ここは、性別役割分業の意識が根付いていて、女性は妊娠・出産を機に家庭に入るべき、家庭を優先すべき、それが幸せの形だと思い込んでいることから起きてしまうマタハラです
また、昭和の価値観押し付け型は、”間違った配慮上司”とも言えます。妊娠した女性に精神的・肉体的に厳しい仕事をさせるのは可哀想だろう、夫や子どもがいる女性は重要な仕事から外した方がいい、家庭を持つ女性が夜遅くまで残業するのは気の毒だろうなどと思い込み、女性側の意思は無視して仕事から外してしまうパターンです。
昭和の価値観押し付け型は、誤った価値観から起こってしまうマタハラのため悪意はなく、だからこそ非常にやっかいな存在だといえます。

【いじめ型】
「迷惑なんだけど」「休めていいよね」「自己中」「ズルしてる」など。妊娠・出産で休んだ分の業務をカバーさせられる同僚の怒りの矛先が、妊娠や育児中の女性に向かってしまうケース。勝手に妊娠したのに何故フォローしなければならないのだという不公平さがその原因です。本来なら業務管理や人員管理をするマネジメント層や会社に向かうべきものです。
大企業であれば一時的に人員を補填することが可能かもしれませんが、中小企業であればそうはいかず、残った社員にしわ寄せが行ってしまいます。マタハラの解決には、フォローする上司、同僚の評価制度の改善や、カバー分の対価の見直し、また結婚・妊娠の選択をしない人にも長期の休暇が取れる制度の導入など、妊娠した女性のみならず、組織全体に対する救済措置が必要です。そしてこのことが、マタハラ問題をきっかけとして、すべての労働者の労働環境の見直しに繋がります。また、小規模な企業にとっては、一人でも人員が抜けることが死活問題となることもありえます。企業だけの責任にせず、自治体や政府からそういった企業への援助というのももっと必要です。

【パワハラ型】
日本には長時間働けて一人前、長時間働けなくなった育児を抱える女性は半人前という労働文化があります。長時間働けない社員に、長時間労働を強制することがパワハラ型のマタハラです。「時短勤務なんて許さない」「夕方帰る正社員はいらない」「妊婦でも特別扱いはしない」など。産休・育休・時短勤務といった制度はあるものの、それを特別なものと考え、利用することを良しとしない職場の風土が大きく横たわっている場合に多く見られるケースです。

【追い出し型】
反対に、長時間働けなくなった社員を労働環境から排除することが追い出し型のマタハラです。「残業出来ないと他の人に迷惑でしょ」「子どもが出来たら辞めてもらうよ」など。酷い会社だと「産休・育休などという制度はうちの会社にはない」などと言うこともあります。驚くべきことに、未だに誰一人として産休・育休を取得したことがなく、妊娠したらみな必ず辞めさせられるという会社が日本には未だに多く存在します。
これは明らかに違法行為です。いかに企業の法律に対する認識が低いかということが分かりますが、そうした法律や制度より”慣例”が優先されてしまっているのが現状です。マタハラ被害の多くがこの追い出し型であり、これが今の日本の現状なのです。
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女性が通るマタハラ3つの関所とマミートラック

女性は3つの関所を通過しなければ、妊娠・出産・育児をしながら働き続けることができません。
1つ目の関所は、妊娠を報告する時。”妊娠解雇”です。マタハラNetに寄せられる被害相談件数では、この時点でマタハラされてしまうケースが圧倒的に多いです。
2つ目の関所は、産休・育休を取得する時。〝育休切り〟です。
3つ目の関所は、産休・育休を取得し復帰する時。時短勤務を申請しても利用させてもらえなかったり、降格(キャリアリセット)されたりするケースです。マタハラNetの被害相談では、この段階での相談が2番目に多いです。

この3つの関所を無事に乗り越えたとしても、その後にはマタハラの親戚”マミートラック”が待ち構えている可能性があります。マミートラックとは、仕事と子育ての両立はできるものの、昇進・昇格とは縁遠いキャリアコースのことです。ワーキングマザーは往々にして補助的な職種や分野で、時短勤務を利用して働くようなキャリアを選ばざるをえなくなり、不本意ながら出世コースから外された”マミートラック”に乗せられてしまうことが多々あります。「解雇される」等の明白なマタハラが解決されても、このマミートラックは根深い問題です。なぜなら、これは企業だけの問題ではなく、子育ての負担が母親が担うという男女の役割分担の意識が大きく変わらない限り解決できないからです。マミートラックを回避するということは、子育て中でも勤務が不安定にならないということを意味し、そのためには夫に頼るか、家族に頼るか、人を雇うか、いずれかの手段を使って自分が仕事に集中できる環境を確保する必要があるからです。そして、それは決して容易なことではありません。





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